第4回研究会報告

2016年度第4回古写本『源氏物語』の触読研究会

日時:2016年12月09(金)14時00分〜19時00分

場所:国立民族学博物館

参加メンバー:伊藤鉄也、広瀬浩二郎、大内進、高村明良、渡邊寛子、尾崎栞、田中圭子、関口祐未(8名)

 

  12月9日(金)国立民族学博物館において、第4回研究会を行った。

 研究会の前に、今回は「民博のさわる展示の学習会」を行った。国立民族学博物館の「さわる展示」を、MMP(みんぱくミュージアムパートナーズ)による案内でめぐり、触察の仕方や説明方法などの情報収集をした。

 今回は、「探究ひろば」「朝鮮半島の文化」「オセアニア」の3つの展示室をまわった。触常者の参加者は3名で、それぞれに1名ずつMMPの案内が付き、世界の民族の衣食住を中心とした展示物を触って体験した。

 3つの展示室では、はじめに、その展示室の位置づけや、その国の文化・歴史について、簡単な解説を全員で聞いた。そのあと個人に分かれ、展示物に触れてMMPの説明を受けながら触察した。触常者の反応や質問に対して、MMPが説明を行う。また、MMPから触るべきポイントを案内したり、問いかけをしたりと、その場に応じた対応がなされた。

 触って展示物の形を確認するだけでなく、その展示物がその国の生活文化のなかでどのように使われ、どのような意味を持つのか、どのような独自性があるのかなど、展示物を通して、生活文化について理解を深めるやり取りが行われた。展示物には、昔と今の姿を比較して触ることができるもの、叩いて音が出るものなど、種類が豊富である。

 「探究ひろば」では、「世界をさわる」展示を体験した。触って楽しめるもの、16点が展示されている。はじめに、木・石・真鍮でできた3つの像を、形・素材・制作方法など想像しながら触り、MMPの説明を聞いて確認していった。作品を載せる台には、点字による展示解説も付いている。見て触る、見ないで触るコーナーも順に体験した。世界の生活用品を、単純な形のものから複雑なものまで、触常者・見常者ともに楽しむことができる。1つの展示物に鑑賞者が集中しないように、MMPの誘導によって、他の鑑賞者とほどよい距離感を保ちながら、じっくりと1つの展示物に向き合い、触察できるよう配慮がなされている。

 殊に驚いたのが、「オセアニア」の展示室では、大型のカヌー、チェチェメニ号の実物が展示されていることであった。はじめに、チェチェメニ号の模型が用意され、模型を触りながら説明を聞いて船体の構造を確認した。次に、実物のカヌーの周りをMMPの誘導によりめぐり、船体・帆など部分部分の形や材質を触って、説明を聞きながら確かめていった。

 セミナー室に場所を移し、参加者が感想を述べ、意見交換を行った。

 丁寧な解説、臨機応変の対応など、細やかで柔軟なMMPの案内に対する感想が述べられた。触常者の参加者からは、博物館では私語厳禁が普通だが、会話をしてもよい、展示物を通して会話ができることがありがたかった、という感想が出された。また、展示物にも、興味のあるものとそうでないものがあり、ゆっくり触りたいもの、少し触ればよいものがあるとの意見もあった。一方的な展示解説にとどまるのではなく、展示物を触っていくうちに問いが生まれ、解説を聞くことでさらに興味が引き出される。参加者の問いや興味に応じたMMPの説明と自然な誘導によって、世界の生活文化について理解を深めることのできる展示空間が実現されていると感じた。

 「民博のさわる展示の学習会」終了後、引き続きセミナー室で研究会を行った。

 はじめに、伊藤代表が、ジャーナル2号編集の進捗状況と今後の研究計画を説明した。

 研究会では、4点の研究発表があった。1点目は、触常者による絵巻の触察・触読方法についての発表、2点目は、触常者による高校古典の変体仮名授業を再現した発表、3点目は、平安時代の薫物とその贈答様式を再現した発表、4点目は、3D絵画作成の取り組みについての発表である。

 以下、問題点や意見を整理する。

 

 1.2016年6月から12月までの活動報告(関口祐未)

 本科研の2016年6月から12月までの活動内容の報告をし、現在作成中の『立体変体仮名字典』について、立体コピーを配布して説明をした。『立体変体仮名字典』を触り、意見・感想を聞いた。

  • 意見1:立体コピーの文字の線は、もっと細く、シャープな方がよい。線の間に隙間がほしい。線の盛り上がった先端と、紙の部分が同時に触れないと形が認識しづらい。
  • 意見2:『群書類従』のような木版本の板木の文字の線がよいのではないか。線が堅いほうがわかりやすいのではないか。
  • 意見3:文字の線は、仮名文字を一列ずつ囲っている罫線ぐらいの細さがよい。
  • 意見4:6ミリ四方に屈曲点が3点あると認識できない、という報告がある。画数が多い複雑な文字は、別に大きくするなど対処すべきである。
  • 意見5:仮名文字の横に、点字・点訳を付けたほうが親切である。初心者の学習では、連綿の仮名がどこで切れるのかを示すためにも、1文字ずつに点字シールを貼るのがよい。
  • 意見6:多くの人が広く使えるような字典を作るべきである。研究会参加者の触常者がよい、という考えで作ると、たくさんの人にとっては使いにくいことがあるかもしれない。
  • 意見7:連綿の文字では、「あ」の文字の範囲に触れると「あ」と音声が出るような装置を作るのはどうか。タッチパネルに、圧力センサーが内蔵されていて、スクリーン(タッチセンサー)の上に立体コピーを置き、押すと音が出る仕組みなど。

 

 2.研究報告「i-Penを活用した触読資料」(伊藤鉄也)

 12月10日に行われる「総研大文化フォーラム2016」でポスター発表する、i-Penを活用した触読資料作成の取り組みについて説明した。

  • 意見1:どういう人が、どのように使うのか、ターゲットを定めるべきである。興味のある人に少し触ってもらって、興味を持ってもらえるようなものでなければいけない。

 

3.研究発表「絵巻の触読と触察に関する実践報告―共立女子大学図書館所蔵「竹取物語絵巻」―」(尾崎栞)

 今年度、大学に提出する卒業論文の概要を発表した。立体化した絵巻を触察し、詞書を触読して翻刻する過程について詳しく説明をした。

  • 意見1:翻字は、字母に戻ることができるような仕方がよいのではないか。
  • 意見2:『竹取物語』はいつの時代の帝の物語かわからない。わからないものだらけの物語。いろいろな『竹取物語』を触読して比較することで、時代性を読み取ることができるのではないか。触って理解しなければわからない部分を生かすべきである。自信を持って続けていってほしい。
  • 意見3:かぐや姫はイメージとしてどんな姿をしているのか。十二単を着ている?絵巻の絵に引っ張られすぎないようにすべきである。
  • 意見4:絵巻の立体コピーは、無駄な線が排除されていてよい。人物だけでも絵の情報がほしい。絵巻はあとから作られた。『源氏物語絵巻』の影響を受けているのではないか。
  • 意見5:学習と研究を区別する。尾崎さんの研究によって先行事例ができた。しかし、学習にとどまっていてはいけない。触って学ぶ、ということにどれぐらい見地を見出せるかが問題である。基礎資料を作った段階に過ぎない。博士論文ぐらいまではサポートを受けることができるが、その後、どうやって自立するのかを考えなければいけない。多くの資料を用いていかなければならない。絵は簡略化されていて、立体にする際、制作者の視点が入る。そこをどうするか。共同研究でやらない限り研究は難しい。他に例がない分野なので、切り開いていってほしい。
  • 意見6:人に面白さを伝えるのと、自分で面白さを見つけるのは段階が違う。見ることの代用は、触ることではできない。色のハーモニーを、触ることで感じることはできない。オリジナルなものが出せれば、パイオニアとしての価値が出てくる。
  • 意見7:触常者に絵を伝えることを批判されたことがある。研究はオリジナリティーが大切。絵巻を立体化する際、制作者の解釈が入るのが問題である。

 

4.研究発表「『群書類従』所収「竹取物語」冒頭触読レポート―弱視生徒の目をかりて」(渡邊寛子)

 触常者の渡邊先生が勤務先の盲学校で行った、弱視生徒を対象とした高校国語古典の授業を再現した。授業では、『群書類従』に収められる板本『竹取物語』冒頭部分を立体コピーしたものを教材として用いた。

 授業の様子を録音したデータを再生し、授業でなされた仮名文字の板書を実演しながら、変体仮名の説明を再現した。板書では、「計」と「个」、「波」と「者」、「遠」と「越」の違いなどが字母から書き出された。

  • 意見1:板書された変体仮名の形を確認しながら、変体仮名の説明を聞く弱視生徒の受け答え、反応がよい。
  • 意見2:板書をしても自分で確認できないのは不安である。自分で確認できないことは授業ではしないようにしている。
  • 意見3:触常者と見常者の変体仮名のテキストは異なってくるのではないか。同様に、変体仮名の学習にも、触常者と見常者では、それぞれに効果的な教え方というのがあるのではないか。

〈〈〈音声データ〉〉〉『群書類従』所収「竹取物語」冒頭・変体仮名の説明

 

5.研究発表「浮舟巻の「つゝみふみ」と『花鳥余情』勘物―古註釈書に伝わる薫物の贈答様式について―」(田中圭子)

 『紫式部日記』に登場する「黒方」の薫物を再現し、平安貴族の贈答様式について説明をした。

 今回は、「黒方」の代わりに同じ処方の「稲妻」を調合した。「立文」という重要な文書を包む形に折った紙の中に「稲妻」を包み、中宮彰子方の女房から弘徽殿女御義子方の女房へ送られた「立文」を再現して配った。

  • 意見1:立文の折り方はなぜ重要なのか。 →公文書の演出をするためである。きちっとした感じを出すために立文で折っている。
  • 意見2:稲妻を食べてみたらおいしい。 →蜜で練っているので食べることができる。養命酒と同じ成分でできている。口臭予防としても用いられた。
  • 意見3:同じ薫物がほしいときは。 →漢方薬局で調合してもらえる。たんすや下駄箱、便箋入れなどに使うことができる。

 

6.研究発表「手でみる絵画の作成の基礎・基本—「手でみる新しい絵画を作ろう」の取組から」(大内進)

 山梨県立美術館で行われたワークショップ「手でみる新しい絵画をつくってみよう」の取り組みについて発表した。葛飾北斎「神奈川沖波裏」の3D絵画を配布し、3D絵画の仕組みを説明した。

 触覚を使って、描かれたものをどこまで伝えることができるかが大きな問題である。絵の一部を共有するだけにすぎないが、その共有できる一部が大切である。共有できる一部を大きくしていく。

 平面の絵画の奥行きをどう表すか。それには補助的な教材が必要である。平面を立体にして、さらに変形する。2次元を3次元へ。Z軸(奥行き)を切って層に分け、遠近を表す。絵をレイヤー化(層化)する。

 視覚は選択する。見たいものを見る。一方、触覚は全部を取り入れる。触覚でみる絵画を作成する場合は、大事なものと不要なものの区別を示す必要がある。デフォルメする。

  • 意見1:民博の展示で体験したように、ミニチュアで触ってから実物を触るとわかりやすい。
  • 意見2: 触覚以外の別の感覚を活かすことも必要ではないか。香りが出るような仕掛けを作るなど、さまざまな感覚を利用する。

 

7.連絡事項

 ジャーナル2号の原稿を募集する。

 本科研は来年3月で終了するが、今後とも研究会やジャーナル刊行を続けていく。