触読レポート(1)・(2)

触読レポート(1)

日時:2015年07月30日(木)

場所:日比谷図書文化館 地下1階ライブラリーダイニング日比谷

触読者:渡邊寛子(わたなべ・ひろこ)

所属:福島県立盲学校・高等部国語科教諭

聞き取り:伊藤鉄也(いとう・てつや)

記録者:関口祐未(せきぐち・ゆみ)

 

教材:ハーバード大学本「蜻蛉」14丁ウ〜15丁オ見開き1丁

◎A4版の紙面いっぱいに拡大した半丁5行の立体コピー本文4枚を使用

 次の3種類の大きさの立体コピー本文を用意した。上記の本文が1番読みやすかった。

・原寸の見開き1丁1枚(倍率100%)→全くわからない。

・半丁10行2枚(倍率122%)→読める部分がある。

※ひらがなの簡単なものは読める。「し」・「て」・「く」・「に」・「こ」・「い」・「の」・「け(个)ん」・「た(多)」・「み(三)」・冒頭「心のみだれ(三多れ)」。
全体として小さいが細くてもくっきりと立体コピーが盛り上がっているので、画数の少ないものは触読できる。

・A4版の紙面いっぱいに拡大した半丁5行4枚(倍率165%)→読める。

 

1. 立体コピーのカラー版と白黒版について

カラー版も白黒版も違いがあまりない。しかし、白黒版のほうが線が太くはっきりしている。

※カラー版…原本の写真をカプセルペーパーにカラーコピーしてから立体コピーした本文。

   白黒版…原本の写真をカプセルペーパーに白黒コピーしてから立体コピーした本文。

 

2. 触読の仕方①使用する指

左手人差し指の腹で読む。爪の下あたり。指先の第一関節までで触る。

中途失明者は左手の指のほうが敏感。右手の指は、家事などで肌が荒れて鈍い。右手は左手に添える。

 

3. 触読の仕方②指の動かし方

左手人差し指で、線をなぞるようにして触る。1文字のときは、文字の上を左から右へと動かす。数文字のときは、上から下へと指先をくるくる回しながら、文字のおもてを下がっていく。

 

4. 触読の仕方③点訳した翻字を用いる

須磨巻を読んだときは、点訳した翻字で確認しながら触読を進めた。

翻字に該当する立体コピー本文を探すとき、本文の行数が少ないほうが、目当ての行頭にすぐ行きつくので、行数は少ないほうがよい。

 

5. 読みにくい仮名文字

須磨巻ではわからなかった「は(者)」は、蜻蛉巻ではくっきりしているのでわかった。

「と(止)」の字は須磨巻もくせがある。

連綿体「けはいなと」(14丁ウ4行目)は、つながっているので切れ目がわからない。

 

6. 『変体仮名集』の立体コピーについて

「い」の字は蜻蛉巻の「い」と形が似ていることがわかる。

1つの仮名文字について、似た字形がたくさん挙げられているが、典型的なものだけでよいか。

 

7. 現行の平仮名の立体コピーについて

・平仮名2文字「あお」を、11種類の大きさに立体コピーし、どの大きさまで読めるか聞いた。11種類の大きさは以下の通り。字体は「HG平成丸ゴシックW4」。

140ポイント(4.5cm)・130ポイント(4cm)・120ポイント(3.8cm)・110ポイント(3.5cm)・100ポイント(3cm)・90ポイント(2.8cm)・80ポイント(2.5cm)・72ポイント(2.3cm)・48ポイント(1.5cm)・36ポイント(1.2cm)・28ポイント(1cm)

 48ポイント(1.5cm)は読める。「あ」と「お」は、曲線の内側の空間が狭い(あ)、広い(お)で区別がつく。

36ポイント(1.2cm)は「あ」の「女」の部分がつぶれていてわかりにくい。「お」は3画目の点が1、2画目の線にくっついていてわからない。

28ポイント(1cm)はわからない。

 

8. 書き順を段差で示した木刻凸字・厚紙凸字について

書き順が必要な書道のときに使えるかもしれない。

形が分かっていれば木目は気にならない。しかし、「い」「し」などの単純な字形は木目などの雑音が気になる。

「お」の3画目の点は、1画目の線から離れているほうがよい。

木刻凸字「お(於)」の左(偏)から右(旁)へ移るときの点線の案内は必要ないか。

「お(於)」の字形の説明では、3画目を「1画目終わりから、左下ななめに下がる線」とするが、「1画目と2画目の交わったところから、左下ななめに下がる線」とするほうがわかりやすい。

連綿体「これより」の「り(里)」は読めない。しかし、文脈で判断できる。

連綿体は、書き順がわかっていても難しい。

 

 

 触読レポート(2)

日時:2015年07月30日(木)18:30〜20:00

場所:日比谷図書文化館 4階セミナールーム

触読者:渡邊寛子(わたなべ・ひろこ)

所属:福島県立盲学校・高等部国語科教諭

講座:古文書塾てらこや「ハーバード大学美術館蔵『源氏物語 蜻蛉』を読む」

講師:伊藤鉄也(いとう・てつや)

触読補助・記録者:関口祐未(せきぐち・ゆみ)

※触読方法についての詳細は「触読レポート(1)」を参照。

 

教材:ハーバード大学本「蜻蛉」14丁ウ〜15丁オ見開き1丁

◎A4の紙面いっぱいに拡大した半丁5行の立体コピー本文4枚を使用

 

1. 《講座のはじまる前》

用意してきた点訳の翻字で確認しながら、立体コピー本文を触読する。

 

2. 《講座の受け方》

くずし字の説明を聞きながら、該当する文字を指でなぞっていく。

 

3. 《触読の仕方》

書いている感覚で指先を動かして文字をなぞっていく。

次の行へ移るときは、行末から次の行の頭に向かって、行間の空いている紙面に左手人指し指の腹を滑らせながら上がっていく。

余裕があるときは、上の文字をさかのぼって確認する。

 

4. 《講座を受けた感想》

自分が書道をしていた経験があるので、字の形が思い出されて理解できた。

解説してもらって触るのが一番能率がよい。

先生の解説付きなので指で追えた。

1ページに収まったものだから読みやすかった。

「な(奈)」の字がわからない。苦手なのか。

形のわかりづらい「は(者)」の字は、線は細いが形がつぶれていないので読める。

美しい字は読みやすい。

漢字だが「給」はわかる。

 

. 《要望》

立体コピー本文の行頭に、点字で通し番号が打ってあるとわかりやすい。
(しかしそこまでしなくても、簡易点字盤を持っていたので、その場で1枚ごとには点字
をうった。)

 (触読レポート 2015.8.26)

関連情報

「わかる喜び再び―古写本『源氏物語』触読体験―」渡邊寛子(2015年08月03日)