第1回研究会報告

2015年度第1回源氏写本の触読研究会

日時:2015年6月14日(日)15時00分〜17時00分

場所:千代田区立千代田図書館・10階会議スペース

参加メンバー:伊藤鉄也、広瀬浩二郎、大内進、中野真樹、岸博実、高村明良、淺川槙子、関口祐未(8名)

 

 6月14日(日)千代田図書館において第1回研究会が行われました。

 伊藤代表から本科研の趣旨があらためて説明され、現状の報告と今後の方針が話し合われました。

 以下、問題点や意見を整理します。

 

1.研究全体について

 研究方法の確認や新たな視点など、自由な意見が出された。

  • 須磨巻の和歌を中心に、触って読み取れる方法を調査・研究する。
  • 『源氏物語』の面白さや、古写本の変体仮名を読む楽しさ・喜びを伝えることが一番大切。
  • 研究者が、写本をどのように研究しているのかも合わせて知りたい。
  • 変体仮名の筆跡を、筆の動き・運動と捉える。
  • 触読して変体仮名を読み取るだけでなく、読み取った変体仮名を、そらで書いてあらわせるところまでが習得といえる。
  • 少ない文字数でも、変体仮名を読むことができるようになればよいのではないか。
  • 文字だけではなく、須磨巻なら現地の須磨に行くというように、物語の内容についても楽しみ、理解を広げていく。

 

2.本科研ホームページの説明

 ホームページのレイアウト、サイト名、研究計画調書の表現について説明がなされた。

  • サイト名「源氏写本の触読研究」について、熟語を使っていても気にしなくてよい。同音異義語は注意すべきだが、和語にこだわらなくてよい。「源氏」は略さず「源氏物語」としたほうがよい。
  • 音声読み上げ用のページを作ったほうがよいか。
  • 本科研の趣旨としては、視覚障害者もそうでない人も文化を共有するということにあるので、読み上げ用のページはいらないのではないか。
  • 「研究計画調書」をわかりやすい文章に書き直したものに変える。
  • 科研のメンバーの、ネット上に公開している論文や情報などは、随時、本人の許可を得てリンクに加えていく。

 

3.用語の確認

 「視覚障害」という言葉を使うことについて確認をした。

  • 公的な場では問題ない。学術用語の1つと考えてよい。
  • 「障害」を「障がい」「障碍」などと書いても、音声で読み上げればいずれも「しょうがい」なので、当事者には意味がないことである。
  • 「障害」は「害」と漢字で書くのが正式。内閣府は「がい」と平仮名、文科省は「害」と漢字を使う。「害」の表記にこだわるよりは、「障害」という言葉自体を変えたほうがよい。
  • 「障害」は「持つ」ではなく「ある」である。
  • サイトの表示や原稿などで、「障害」の言葉を使うのが気になるのならば、最初にただし書きをしておけばよいのではないか。
  • 障害はその人の内部の問題ではなく、その人をとりまく外部がバリアをつくってしまっているのが問題である。

 

4.研究発表「明治33年式棒引きかなづかいの今」(淺川槙子)

 明治34年から明治42年まで尋常小学校の教科書につかわれた「明治33年式棒引きかなづかい」について研究発表がなされた。

〈1〉3 明治33年式棒引きかなづかいの今(1)「伊藤」という人名の表記について

  • 「伊藤」だけでなく、「大内」もさまざまな表記がある。

〈2〉3(2)にあげたホーチキ株式会社について

  • 発表者は、「昭和47(1972)年7月に、会社名をカタカナに長音符をつけた形で表記することになったが、変更した理由はわからない」とした。変更の理由について、ホーチキ株式会社のホームページ内にある「会社案内 沿革」に「1972年 7月 米国に100%子会社のホーチキ・アメリカコーポレーションを設立」とあるので、米国で子会社を設立するときに、カタカナで表記をする必要が生じたのではないか。

〈3〉3(3)ケータイについて

  • 「明治33年式棒引きかなづかい」というよりは、「棒引きかなづかい」の一例ではないか。
  • 携帯電話が一般的になった時期と、パソコンが広まった時期がかさなることから、パソコンで文字を入力する方法である、ローマ字入力がかかわっているのではないか。

 

5.木刻凸字について

 連綿体「むかしこそ」「これより」、変体仮名「む」「か」「し」の木刻凸字を用意し、触った感想を聞いた。

  • 指で凸字を読むのは労力がいる。
  • ハーバード大学本の1.5倍の大きさで彫った連綿体「むかしこそ」「これより」の凸字は、初心者には小さすぎる。1文字5〜3センチの大きさが望ましい。
  • 字の形(骨格)を教えるのか、書体を教えるのか、どちらかにしぼったほうがよい。
  • 筆順を意識した凸字はめずらしい。
  • 凸字を触って、頭のなかで線の軌跡を残しながら形を描いていく。したがって、線の少しのゆがみでも、補正するのは大変なエネルギーを要する。
  • 墨の濃淡は、ツルツル・ザラザラで表せるか。
  • 連綿体では、文字と文字の境がわかりにくい。文字の終わりから、次の文字の1画目始めにどのように導くかが工夫のしどころである。
  • 点字は指を置いただけで読み取れるが、凸字は指を置いただけではすぐに読み取れないのが問題。
  • 木を粉にして固めた板が市販されている。その板を彫って凸字を作れば、年輪に影響されず触読できる。

 

 なお、第2回研究会は10月23日(金)京都ライトハウスにおいて開催予定。