《『百人一首』の[触聴的印象訳]に関する趣旨説明》
これまでに『百人一首』に関する書籍は数えきれないほど刊行されています。
しかし、目が見えない方々のための解釈を提示したものは皆無のようです。
触覚や聴覚による印象を意識した現代語訳があってもいいと思います。
目が見える人だけを対象にした解釈や現代語訳だけでは不十分だからです。
そこで、触覚や聴覚を意識した『百人一首』の現代語訳を試作することにしました。
これは、参加型の現代語訳を集成することで実現したいと思います。
ここには、[触聴的印象訳]として、目が見えない方々の理解を支援するための現代語訳を提示します。
「触聴」ということばは、主宰者が勝手に作った造語です。
しかし、手短かにその意図を伝える上で、的確なことばだと言えるでしょう。
歌の意味や、歌われている世界のイメージを意識した、平易な現代語訳を目指します。
参加を希望される方からの、独自な現代語訳を楽しみにしたいと思います。
以下に掲載されている各種の試作例を参考にして、まずは作品をお寄せください。
genjiito☆gmail.com (送信の際は、☆を@に置き換えてください)
取り上げる【歌番号】〈和歌全文〉[触聴的印象訳]〈ハンドルネーム〉をお忘れなく。
使用言語は、日本語に限定させてください。
採否は、主宰者にお任せいただくことを原則とします。
特に、不快感を内包する訳への対応はいたしかねます。
最初から完成版を目指すものではありませんので、逐次入れ替えか併記を考えていきます。
まずは、百首の[触聴的印象訳]を一通り完成させます。
同時進行で、目が見えない方々からのご意見を優先して、折々に補訂します。
諸権利をめぐるキャッチボールは、不毛な時間となりがちなので避けましょう。
そのためにも、補訂版に対する原案者の改訂版は、優先的に取り上げたいと思います。
コラボレーションによる訳の集合体としますので、ご理解の上での投稿をお願いします。
奮ってご参加いただけると幸いです。
この基本方針は、状況に応じて適宜変更することも、ご理解をお願いします。
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【1】秋の田の かりほの庵の とまをあらみ 我が衣手は 露にぬれつゝ(天智天皇)
[触聴的印象訳]
秋の田のかたわらにある農作業のための作業小屋の屋根は、菅や萱で編んであるのでその編み目が荒い質素なものです。
この田んぼの見張りをして夜を過ごす私の着物の袖は、屋根から漏れてくる夜露に濡れて湿っぽくなっていくことです。(鷺水亭主)
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【2】春すぎて 夏きにけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山(持統天皇)
[触聴的印象訳]
春がすぎ去って、夏の薫りや風の気配が感じられるようになりました。
いにしえより夏になると白い着物を干すと言われている天の香具山に、真っ白な衣がはためいているようです。(鷺水亭主)
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【3】足引きの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を 一人かもねん(柿本人麿)
[触聴的印象訳]
夜になると、山鳥は雌雄が離れ離れに寝るということです。
その山鳥の雄の長く垂れ下がった尾のようなとても長い秋の夜を、今こうして一人で寂しく寝ることですよ。(鷺水亭主)
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【4】田子の浦に うち出てみれば 白妙の 富士のたかねに 雪はふりつゝ(山部赤人)
[触聴的印象訳]
田子の浦の海岸から遠くを見わたしました。
見上げると、富士山のいただきでは、真っ白な雪が幻想的に今も降りつづいているようです。(鷺水亭主)
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【5】おくやまに 紅葉ふみわけ 鳴く鹿の 声きくときぞ 秋は悲しき(猿丸大夫)
[触聴的印象訳]
人里離れた奥深い山で、あたり一面に散った紅葉を踏みしめて道をつけながら、恋い慕う雌鹿を求めて鳴いている雄鹿がいます。
その物悲しい鳴き声を聞くと、ことさらに秋という季節の悲しみが感じられるものです。(鷺水亭主)
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【9】花の色は うつりにけりな いたづらに わが身よにふる ながめせしまに(小野小町)
[触聴的印象訳]
桜の花の色が、ずいぶんと色あせてしまったのね。長雨が降っていた間に。
桜の花の色と同じように、私の美しさもおとろえてしまったわ。恋の悩みなんかに思い悩んで、もの思いをしているうちに・・・。(komachi)
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【10】これやこの 行くも帰るも わかれては 知るも知らぬも あふ坂の関(蝉丸)
[触聴的印象訳]
これがまぁ、京の都から東国へ行く人も、東国から都へ帰ってくる人も、知り合いの人も知らない人も、ここで会っては別れているという、その名前のとおり逢坂(会う坂)の関なんだなぁ。(komachi)
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【17】ちはやぶる 神代もきかず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは(在原業平朝臣)
[触聴的印象訳]
神様がこの世界を治めておられて不思議なことが多かった時代にも、聞いたことがありませんよ。
紅葉で有名な竜田川が、水を美しい紅色にくくり染めにしているなんてね。(komachi)
不思議なことが多くあったという、
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【21】今こむと いひしばかりに 長月の 有明の月を 待ちいでつるかな(素性法師)
[触聴的印象訳]
すぐに行きます、と、あなたがおっしゃったのを信じて毎晩待っているうちに、とうとう九月の夜明けの有明の月が出てしまいましたよ。(komachi)
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【24】このたびは ぬさもとりあへず 手向山 紅葉のにしき 神のまにまに(菅家)
[触聴的印象訳]
今回の旅では、神さまに捧げるお供え物を用意しておりません。
この手向山の錦の織物のように美しい紅葉を、どうぞ神さまの御心のままにお受けとりください。(komachi)
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【35】人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香ににほひける(紀貫之)
[触聴的印象訳]
あなたのお気持ちは、さあね、昔と同じかどうかわかりません。
この奈良では梅の花が美しく咲いて、いい香りが昔と同じく香っていますよ。(komachi)
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【40】しのぶれど 色にいでにけり わが恋は ものや思ふと 人のとふまで(平兼盛)
[触聴的印象訳]
誰にも知られないように隠していたのに、わたしの恋する心は顔に表れてしまったようです。
「恋に悩んでいるのですか?」と、まわりの人に聞かれてしまうくらいに。(komachi)
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【41】見恋すて ふわが名はまだき たちにけり 人しれずこそ 思ひそめしか(壬生忠)
[触聴的印象訳]
恋をしているという私のうわさは、もうみんなに知られてしまった。誰にもわからないように、こっそりと恋をし始めたところだったのになぁ。(komachi)
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【57】めぐりあひて 見しやそれとも わかぬまに 雲がくれにし 夜半の月かな(紫式部)
[触聴的印象訳]
久しぶりに会えたのに、あなたを見たかどうかもわからないうちに、雲に隠れてしまう夜中の月のように、あなたも、あっという間に帰ってしまいましたね。(komachi)
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【62】夜をこめて 鳥のそらねは はかるとも よに逢坂の 関はゆるさじ(清少納言)
[触聴的印象訳]
夜が明けないうちに、夜明けを告げる鶏の鳴き声をまねしても、函谷関(かんこくかん・中国の函谷関の話)ならだませても、あなたとわたしの間にある逢坂関は開きませんよ。私は逢いませんからね。(komachi)
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