【概要】
『源氏物語』には多くの本文が伝わっています。しかし、多くの異文の中で、たまたま現在は池田亀鑑がよしとした大島本だけが読まれているだけです。研究という視点から言うと、これでいいはずがありません。
『源氏物語』の本文研究は、とにかく遅れています。
まずは、伝えられている『源氏物語』の古写本を翻字することです。
そこで、多くの物語本文の違いがわかりやすく一覧できるツールを、今回開発しました。
これによって、若手の研究者が『源氏物語』の本文研究の遅滞に気づき、本文を翻字するという基礎的な分野に参加参入してくれることを期待しています。
ここに公開する小道具は、これまで刊行してきた『源氏物語別本集成全15巻』と『源氏物語別本集成続』(第7巻まで)の版下を作成する仕事の延長線上に産まれたものです。
プログラムの開発には、国文学研究資料館の野本忠司先生のお力をお借りしました。
記してお礼申し上げます。
【プログラム説明】
以下の書式データをインターネットを介してアップロードすると、本文の校合が行われます。
インターネットにつながっていれば、いつでもどこでも本文異同の資料の作成、確認が可能です。
利用者の制限はつけておりません。
ただし、サーバー負荷を考慮してCSVファイルの最大容量は500Kに制限してあります。
【使い方】
〈例〉「桐壺」の3種類の本文を比べる場合
(1)まず、以下のようなカンマ区切り(CSV)形式のデータを用意します。
例示したものは、『源氏物語』の第1巻「桐壺」の冒頭部分です。
陽明本・大島本・尾州本の3本の翻字本文を、文節単位で区切ったものです。
エクセルで作成したデータを、CSV形式で書き出すだけで作れます。
通番号,陽明本,大島本,尾州本
010001-000,いつれの,いつれの,いつれの
010002-000,御時にか,御ときにか,御時にか
010003-000,女御,女御,女御
010004-000,かうい,更衣,更衣
010005-000,あまた,あまた,あまた
010006-000,さふらひ,さふらひ,さふらひ
010007-000,給ける,給ひける,たまふ
010008-000,中に,中に,なかに
(2)次に、インターネットの以下のサイトにアクセスします。
すると、次のようなシンプルな画面が表示されます。
■スタート画面 源氏異文校合デモ
源氏CSVファイルを選択してください.
[入力ファイル選択](ボタン)
[送信](ボタン)
ここで、[入力ファイル選択]のボタンを押し、自分のパソコンにある上記のCSV形式のデータのファイルを選択します。
その後、[送信]ボタンを押すと、1秒もしないうちに、次のような結果が表示されます。
陽明本・・・・通番号
大島本[ 大 ]
尾州本[ 尾 ]
いつれの・・・・010001-000
御時にか[尾]・・・・010002-000
御ときにか[大]
女御・・・・010003-000
かうい・・・・010004-000
更衣[大尾]
あまたさふらひ・・・・010005-000
給ける・・・・010007-000
給ひける[大]
たまふ[尾]
中に[大]・・・・010008-000
なかに[尾]
それでは、私の手元にある「桐壺」巻の28種類の写本の翻字データで、諸本の本文がどのように違うのかを見てみましょう。これも、巻頭部分だけです。
データで、諸本の本文がどのように違うのかを見てみましょう。これも、巻頭部分だけです。
送信するデータは今は省略して、結果を示します。
28種類もの多くの写本の文字表記が、こんなにすっきりと整理できました。
それも、瞬きをするヒマもないくらいに早く表示されます。気持ちがいいほどです。
陽明本・・・・通番号
大島本[ 大 ]
尾州河内[ 尾 ]
明融本[ 明 ]
御物本[ 御 ]
国冬本[ 国 ]
麦生本[ 麦 ]
阿里莫[ 阿 ]
大正大本[ 大 ]
絵入源氏[ 絵 ]
京女大正徹本[ 京 ]
国文研正徹本[ 国 ]
天理河内[ 天 ]
穂久邇文庫[ 穂 ]
日大三条西本[ 日 ]
伏見天皇本[ 伏 ]
肖柏本[ 肖 ]
池田本[ 池 ]
保坂本[ 保 ]
高松宮本[ 高 ]
前田本[ 前 ]
九大古活字版[ 九 ]
湖月抄[ 湖 ]
首書[ 首 ]
三条西本(書陵部)[ 三 ]
仏阿仏(室伏)[ 仏 ]
慈鎮本(室伏)[ 慈 ]
麗子本(渡辺)[ 麗 ]
いつれの[大尾明御国麦阿大絵京天日伏肖池保高前九湖首三仏慈麗]・・・・010001-000
いつれの/つ〈濁点〉[国]
いつれの/〈朱合点〉[穂]
御時にか[尾明国大絵京国天穂日肖池保高前九湖仏慈麗]・・・・010002-000
御ときにか[大御麦阿伏首三]
女御[大尾明御国麦阿大絵京国天日伏肖池保高前九湖首三仏慈麗]・・・・010003-000
女御/〈朱合点〉[穂]
かうい[国仏慈]・・・・010004-000
更衣[大尾明麦阿大絵京国天日伏肖池保高前九湖首三]
かうゐ[御]
更衣/〈朱合点〉[穂]
御息所[麗]
あまた・・・・010005-000
さふらひ[大尾明御国麦阿大絵京国天穂日伏肖池保高前九湖首三仏慈]・・・・010006-000
侍ひ[麗]
給ける[明御麦阿大絵京国天日肖池保前九湖首三仏慈]・・・・010007-000
給ひける[大]
たまふ[尾高麗]
給[国]
たまひける[穂伏]
中に[大御麦阿穂肖九首仏慈]・・・・010008-000
なかに[尾明国大絵京国天日伏池保高湖三麗]
なかにも/も$[前]
実は、このプログラムは、別の利用方法があります。
たとえば、8人の生徒の6教科の成績の散らばり工合を確認するときをあげます。
こんなことがあるかどうかは別にして、こんなこともできる、という例として見てください。
まず、CSV形式のデータを作成します。
教科,相川,青木,赤井,秋田,朝田,足立,阿部,荒本
国語,90,70,80,60,80,70,60,90
古文,80,90,70,90,70,60,50,80
漢文,70,80,60,80,90,50,80,70
英語,60,70,90,70,80,90,70,90
歴史,40,50,50,60,40,50,70,80
数学,50,90,80,60,70,80,60,80
これを、「源氏異文校合デモ」のプログラムを通して処理をすると、以下の結果が得られます。
相川・・・・教科
青木[ 青 ]
赤井[ 赤 ]
秋田[ 秋 ]
朝田[ 朝 ]
足立[ 足 ]
阿部[ 阿 ]
荒本[ 荒 ]
90[荒]・・・・国語
70[青足]
80[赤朝]
60[秋阿]
80[荒]・・・・古文
90[青秋]
70[赤朝]
60[足]
50[阿]
70[荒]・・・・漢文
80[青秋阿]
60[赤]
90[朝]
50[足]
60・・・・英語
70[青秋阿]
90[赤足荒]
80[朝]
40[朝]・・・・歴史
50[青赤足]
60[秋]
70[阿]
80[荒]
50・・・・数学
90[青]
80[赤足荒]
60[秋阿]
70[朝]
しばらくは遊んでみてください。
そして、おもしろい活用がありましたら、教えてください。