今後に残された問題点

 

  現在、2年計画の予定をしているデータ処理の中、ほぼ半分以上の作業が終了したところである。これまでの経緯を振り返り、次年度に継続して行う作業と研究については、以下の3点が問題として残っていると思う。

    1、階級値の再検討

 異同に対する重み付けの作業に、あまりにも膨大な時間を要したように思う。それは、重み付けの基準が、まだ細かすぎた、という理由が一番の要因となっていることは明らかである。現在、処理を完了したデータの整理と、54巻の整合性を取るための見直しをしている。その整理点検を行う中で、重み付けの階級値の再検討が必要と思われ、ようやく次のような改定案がより有効なものとなることに思い至ったのである。

 つまり、これまでは【10】【9】【8】【7】【6】【0】の6段階に分けて、諸本のことばの異同に応じた重みを付けてきた。

【階級値】┏━完全一致………………………………【10】
     ┃      ┌─音便…………………【9】
     ┣━不完全一致┼─送仮名………………【8】
     ┃      ├─仮名遣………………【7】
     ┃      └─漢字・仮名・踊字…【6】
     ┣━その他もろもろ………………………【0】
     ┗━判定保留(後日確認)………………【保留】

 しかし、これはさらに次のようにしても異同傾向の判別に支障はきたさず、作業効率は大幅に向上することが期待できるのである。

【階級値】┏━完全一致…………………【10】
     ┣━近似一致…………………【5】
     ┣━不一致他…………………【0】
     ┗━判定保留(後日確認)…【保留】

 すでに完了したデータは、それがすべて数値および記号として保存されているので、この階級値の変更は比較的容易である。ことばの異同をデータベース化しながら進めてきた利点が、こうした基準の変更時にも役立つのである。変更にともなう不具合を見定めながら、早急にデータの再点検と再検討を始めたい。

    2、データ公開方法の検討

 早い段階で、〈1、異文データ処理ソフトウェア〉と〈2、全データ検索表示ソフトウェア〉の開発を行なう必要がある。私が平成4・5年度の科研費研究(一般研究C・課題番号d04610266)の一環で開発したデータ検索表示プログラム〈プロムナード〉を、今回は専門家の手を借りて、さらに使い勝手のよい研究者指向のものに作り直していくことで、これは実現できると思っている。
 なお、今年度で処理を終えた本文データに関して、その翻刻本文が公開できないという事情がある。これは、古写本の所蔵者や出版社などの諸権利に関わるものである。今回それを利用させてもらった立場としては、可能な限り問題のない方法で提示したいところのものである。
 現在、暫定的ではあるが、『源氏物語別本集成』の文節番号をもとにして、各々に付与した階級値を一覧表として公表することを考えている。もっとも、『源氏物語別本集成』は完結しておらず、まだ半数の巻を残している。次年度中には、より利用価値の高い情報としての提示を煮詰めていきたいと思っている。

    3、画像データベースの必要性

 本文異同が確認できる箇所においては、原本である写本にどのように書かれているかという情報は、誤写や脱字脱文を考慮する上で重要なものとなる。今回の諸写本間の異同においても、古写本における書写の実体を確認することは、その異同の取り扱いと対処方法に資することの多い重要な要素となるものである。
 今後の検討・考察を見越しての異同箇所の画像データベースがあれば、こうした問題に有効なものとなるはずである。
 そのためには、デジタルカメラが有効な武器となることであろう。前回の平成4・5年度の科研費研究においては、古写本の画像取り込みにスキャナを使用した。しかし、これは労力のロスが多い作業をともなうものであった点を反省している。その点、古写本の1丁の中の1文字を取り出すのに、デジタルカメラは有効な道具である。たとえば、文字が右頁に転写し、左頁の文字は消失してしまった例などである。画像を左右反転すれば、左頁にあった文字が推読できるようになる。その他、誤写の推定や仮名字母の考察においても、有意義な画像資料が多く提示できるようになるはずである。近い将来を見据えて、今後の研究に大いに役立つ画像データベースを作成することを意識していきたいと思っている。

表紙

序文

凡例

論考

今後