『源氏物語』の本文批判は、諸外国の著明な作品・作家に比して大きく遅れている。各書写本間の位相と性格について、パソコンを活用して明らかにしようとするものである。
本研究では、写本を忠実に翻刻したデータを用いる。また、文学作品の質にまで踏み込んだ諸本間の位相を考察するのは、従来なかった手法である。再点検や再確認が容易な本文対校データの公開により、『源氏物語』の本文研究が進展することが期待できる。
『源氏物語』の本文データベースは、まだ一種類の活字校訂本による段階であり、写本レベルでの正確なデータベース化は皆無である。本研究では、6種類の各写本間の位相を明らかにし、特徴のある異同を検討し、異本・異文の世界の様態を探究していく。
本研究は前年度の継続であり、後半部分にあたる。すでに〈大島・陽明・保坂・尾州〉の本文を確定し、異文判定基礎データの整備をした。本年度は残る〈国冬・東大〉の古写本を扱い、諸本間の位相の考察を行なうことになる。
本研究は2ヶ年計画の最終プランである。初年度は〈1-異文判定用基礎データの作成〉と〈2-異同に対する1件毎の重み付け作業〉を行なった。本年は〈3-国冬本と東大本の基礎データの作成〉〈4-国冬本と東大本の重み付け作業〉〈5-分析結果にもとづく考察〉を行なう。
まず、国冬本と保坂本の異文判定用基礎データの整備をした後、前年度と同様の手法で、異文判定作業を行なう。そして、知りたい傾向を自由に表示できるソフトウェアを開発し、作成データの活用環境を提供する。なお、平成9年度の作業経費は、処理データの件数に基づく算出を行なった。しかし、異文判定にあたってしばしば判断を保留して打ち合わせを行なうなど、これらの作業には、予想外に膨大な時間などを要した。そのために、研究協力者への時間の負担が予想の3倍以上にも達した。したがって、本年度はこうした実情に合致するように、データ処理作業に要した時間で作業経費を算出することにした。また、本年度の2種類の古写本データは、すべて新規作成のものであり、全6種類のデータの総点検も行なう。
〔参考文献〕
拙稿「澪標巻の別本 b東大本を中心にしてb」
(『源氏物語小研究 創刊号』平成2・5、源氏物語別本集成刊行会)
拙稿「『桐壷』における別本諸本の相関関係」
(『源氏物語研究 第二号』平成 4・
5、源氏物語別本集成刊行会)
拙稿「桐壷巻における別本群の位相 ー桐壷帝の描写を中心にしてー」
(『中古文学 第五十号』平成
4・11、中古文学会)
拙稿「「澪標」における河内本本文の性格 朱雀帝の描写を中心にして 」
(『本文研究 第2集』(平成10・3、和泉書院)
拙編「国冬本源氏物語(翻刻 夕顔・若紫・末摘花)」
(『本文研究 第2集』(平成
10・3、和泉書院)
拙稿「国冬本「若紫」における独自異文の考察 ーいわゆる青表紙本に内在する異本・異文についてー」
(『大阪明浄女子短期大学紀要 第一三号』平成
11・3)
拙稿「別本本文の意義 ー「澪標」における別本群と河内群ー」
(『源氏物語研究集成 第13巻』平成11・3、風間書房)
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