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研究の目的

1-研究目的d  『源氏物語』の本文は、さまざまな形で伝流してきた。近年は藤原定家の本の形態を伝える、いわゆる青表紙大島本が流布本の地位を獲得している。しかしその大島本も、平安朝の物語として鑑賞する唯一の本文としては問題があると、私は認識している。

 『源氏物語』の本文批判は、依然として不徹底のままである。平成元年より刊行中の『源氏物語別本集成』(全17巻、既刊8冊、伊井・伊藤・小林編、おうふう)は、〈青表紙本〉でも〈河内本〉でもない〈別本〉とされる一群の本文を翻字集成したものである。本文が確定していないこともあり、作品世界の読解にはまだまだ時間がかかる。広く流布する〈青表紙本〉とは一体何かが改めて問われている今、諸本の本文のありようを確認することは急務である。

 本研究は、このような本文研究状況の中で、各書写本の位相を明らかにしようとするものである。

 

2-研究の特色と意義d 本研究では、〈青表紙本・河内本・別本〉と三分されている諸本の本文を再検討する。初年度の平成9年度は、〈大島本・陽明本・保坂本・尾州本〉の各54帖(一部に欠巻あり)を調査した。2年目にあたる本年度は〈国冬本・東大本〉を扱う。各諸本を総当たりで対校するが、異同の質に応じた重みを付け、その集積データから各写本間の位相を右図(「澪標」の場合)のようなグラフとする。加重相加平均と言われる単純な統計処理ではあるが、異同の違いに重みを付けることによって、言葉の質的な違いを加味した位相を明らかにしていく。この結果をもとにして、特徴のある異同を検討し、異本・異文の世界の様態を探究していく。本研究は、写本レベルで対校・考察するのが特徴である。また〈保坂・国冬・東大〉は、今回新たに全巻を翻刻するものである。

 

3-国内外における当研究の位置づけd 本研究では、『源氏物語』の本文異同を、単語レベルではなく文節単位で検討する。また、語彙の異同に重みをつけることによって、より文学作品の質にまで踏み込んだ諸本間の位相を知る手がかりを得ようとしている。こうした手法とその処理にパソコンを活用することは、大量のデータを短期間に処理できるのみならず、第三者による追認・再確認のためのデータを提供できる利点も、合わせ持っている。

 予想される結果としては、〈河内本〉以外の諸本の関係が輻輳し、〈青表紙本〉と〈別本〉の捉え方を54巻トータルとして再検討していくことになると思われる。今回の大量データによる総点検により、〈青表紙本〉と〈別本〉の様態と位相の把握に、新たな指針を提案できると思う。

 古写本レベルにまで遡って、より原典に近い形での『源氏物語』の本文データベースは、本研究が初めてとなるはずである。また、個人的に公開しているホームページ〈源氏物語電子資料館〉でも、本研究の成果を逐一報告し、情報交換を行なう中で本文研究を推進していきたいと思っている。



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