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スペイン語圏における日本文学


1

SEIS PIEZAS NŌ

Yukio Mishima[1925-1970]/Vincente Ribera Cueto,Masae Yamamoto
Barcelona[スペイン]:Barral Editores
1973.165p.20cm./Series de Respuesta 68 Breve Biblioteca de Literaturas/『近代能楽集』/スペイン語/翻訳書

 Vincente Ribera CuetoとMasae Yamamotoによる三島由紀夫『近代能楽集』(1956・4、新潮社)のスペイン語訳(初版)。表紙はJulio Vivas(ホリオ・ヴィヴァス)による、能面をモチーフとした画。裏表紙にも同様の画があり、目にあたる部位に内容紹介。表紙見返しに作者紹介、裏表紙見返しに出版一覧。帯に「El Mas Antiguo y el mas Moderno Teatro Japones(古く新しい日本の現代劇)」とある。表題は「六つの能劇」の意。
 解説はDonald Keene(ドナルド・キーン)による(7-16頁)。スペイン語版のためのノート(17頁)に続き、後述六篇を翻訳。末尾に目次。翻訳は、1956年版所載「卒塔婆小町」(21-39頁)、「綾の鼓」(43-68頁)、「邯鄲」(71-103頁)、「葵上」(107-124頁) 、「班女」(127-142頁)に加え、新潮文庫版(1968・3)収録の「道成寺」(145-165頁)を訳す。スペイン語のためのノートによれば、前5篇は各題の訳はDonald Keene(「Five Modern Noh plays」Knopf,Secker and Warburg,1957)により、「道成寺」はMasae Yamamotoが直接訳した。「綾の鼓」(Et Tambor de Damasco)のみ意味をとり、他は音をとる。これはDonald Keene訳と同様。構成は原本に即し、登場人物の一覧、本文と続く。人物名は、一般名は意味を翻訳、固有名は音表記したうえで役柄について記す。ト書きは括弧でくくる。注は原則ないが、「道成寺」について注記がある。解説は、能の歴史から始まり三島の各編に及ぶが、オニールやコクトーに言及しつつ、都市という時空間を舞台とした新たな近代劇として読み解いている。〔服部〕

2

YO SOY UN GATO:La vida humana vista por un gato

Soseki Natsume[1869-1916]/Jesús González Valles[1929-]
Tokyo[日本]:Centro de Estudios Humanisticos Universidad Seisen(清泉女子大学人文科学研究所)
1974.453p.19cm./『吾輩は猫である』/スペイン語/翻訳書

 Jesús González Valles(ヘスス・ゴンサレス・バリエス)による夏目漱石「吾輩は猫である」(『ホトトギス』1905・1-8)のスペイン語訳(初版)。副題の 「la vida humana vista por un gato」 は「猫から見た人間の生活」の意。
 解説はJesús González Valles 自身による。冒頭、タイトルに関して「この小説には『Tengo el honor de ser gato(私は猫である名誉を有している)』と題名をつけなければならないが、簡潔さのために、そして読者の直観力を信じてより平易に『Yo soy un gato(私は猫である)』とした」と断っている。そして、この小説が猫を語り手にして人間社会を描くという、通常の小説の枠組みから外れた作品であると述べる。続いて漱石の文学史における位置付けや功績などに言及する。
 本文中には挿絵として茨木杉風(いばらぎ・さんぷう 1898-1976)の水墨画を載せ、苦沙彌先生の家に獨仙や迷亭らが集っている場面など数枚を収める。注は施されず、巻末の「日本語の語彙」で「風呂敷」「下駄」「俳句」など10語を解説している。
 Jesús González VallesはスペインのPalencia(パレンシア)生まれ。元清泉女子大学教授。本書のほかに『坊っちゃん』(1969)のスペイン語訳を刊行。〔山田〕

3

KIOTO/LA DANZARINA DE IZU:Yasunari Kawabata

Yasunari Kawabata[1899-1972]/Ana M. de la Fuente
Barcelona(バルセロナ)[スペイン]:Ediciones G.P.
1975.313p.19cm./『古都』『伊豆の踊子』/スペイン語/翻訳書

 Ana M. de la Fuente(アナ・マリア・デ・ラ・フェンテ)による川端康成「古都」(新潮社・1962)、「伊豆の踊子」(『文芸時代』1926・1-2)のスペイン語訳(初版)。1965、1968年にドイツ・ミュンヘンのCarl Hanser(カール・ハンザー)社から出版のスペイン語ペーパーバック。
 見返しに簡単な解説あり。日本人で最初のノーベル文学賞受賞者である原著者が、19世紀最後の年に生まれ20世紀の日本の劇的な発展をすべて目撃したことが作品に忠実に反映されていると述べる。また本作については俳句の規則に従った著しく官能的な散文だといい、原著者の身振りが会話にとって代わる特徴を指摘、「身振り」の散文とよぶ。さらに日本の版画の余白のように原著者が単語の間に空白を設けることも特徴に挙げる。そして、原著者の文章をこの上なく精巧な音楽の一つ、感覚の音楽であると述べる。
 本文は「古都」「伊豆の踊子」のスペイン語訳。「古都」の本文訳には8頁にわたる注が附く。「伊豆の踊子」には注は附かない。巻末に目次。
 Ana M. de la FuenteはHeinrich Boll(ハインリッヒ・ベル)の『El angel callaba(Der Engel schwieg)』(1993)や『Asedio preventivo(Fursorgliche Belagerung)』(1994)等を翻訳。〔可児〕

4

EL CLAMOR DE LA MONTAÑA:Yasunari Kawabata

Yasunari Kawabata[1899-1972]/Jaime Fernandez,Satur Ochoa
Barcelona(バルセロナ)[スペイン]:Ediciones G.P.
1975.313p.19cm./『山の音』/スペイン語/翻訳書

 Jaime Fernandez(ハイメ・フェルナンデス)とSatur Ochoa(ストゥル・オチョア)による川端康成「山の音」(『改造文芸』1949・9―『オール読物』1954・4)のスペイン語訳(初版)。1969年にドイツ・ミュンヘンのCarl Hanser(カール・ハンザー)社から出版のスペイン語ペーパーバック。
 見返しに簡単な本書の紹介と原著者についてのコメントあり。解説はJaime Fernandezによる。解説では、原著者の略歴を紹介。原著者の文学を「孤独」と「伝統」という二つの観点から説明する。原著者は二歳のときに父を、三歳の時には母を亡くし、その後母の実家に引き取られるものの、祖母、姉(伯母の家に預けられたため離別していた)、祖父も次々に亡くし、十六歳で天涯孤独な孤児となった。この孤独が作家に影響を与えたとする理解は通説だが、翻訳者もこの立場である。また、祖父の元で親しんだ『枕草子』『源氏物語』といった古典から「もののあはれ」の感性を看取したことの影響も指摘する。また小説「山の音」の梗概を付す。本文として「山の音」のスペイン語訳。巻末に目次。
 Jaime Fernandezは上智大学外国語学部イスパニア語学科教授。専門はスペイン文学及びイスパノアメリカ文学。遠藤周作『Silencio(沈黙)』(1973)を翻訳。〔可児〕

5

UN PUÑADO DE ARENA:Takuboku

Takuboku Ishikawa[1886-1912]/Antonio Cabezas García[1931-]
Pamplona(パンプローナ)[スペイン]:Hiperión
1976.166p.21cm./poesía Hiperión/『一握の砂』/スペイン語/翻訳書

 Antonio Cabezas García(アントニオ・カベサス・ガルシア)による石川啄木『一握の砂』(1910)のスペイン語訳(初版)。裏表紙に「手套(てぶくろ)を脱(ぬ)ぐ時」の章から一首、「新しき本を買ひ来て読む夜半(よは)の/そのたのしさも/長くわすれぬ」を引用。併せて簡単な原著者及び原著書についての紹介文を記載。
 解説では原著者の略歴などの概説の他に、短歌の背景や伝統的な約束事について紹介し、さらに章立てについて言及。また翻訳に際して同志社大学スペイン文学教授大島正[1918-]の助力を得た旨を記す。本文の短歌は、5行書き。脚注あり。巻末に目次。
 Antonio Cabezas Garcíaはウエルヴァのラ・パルマ・デル・コンダド生まれ。スペインで高等教育を修めた後、1957年から日本在住。京都の大学数校でヒスパニック学教授を務める。『Cantares de Ise(伊勢物語)』(1979)・『Manioshu(萬葉集)』(1980)・『Jaikus inmortales(俳句選)』・『Hombre lascivo y sin linaje(好色一代男)』(1982)・三島由紀夫『La perla y otros cuentos(真夏の死)』(1987)・松尾芭蕉『Senda de Oku(奥の細道)』(1993)等、翻訳書多数。Hiperión(イペリオン)はGeorges Bataille(ジョルジュ・バタイユ)『El azul del cielo(Le Blue du ciel)』やJack London(ジャック・ロンドン)『El talón de hierro(The iron heel)』等、外国文学の翻訳を刊行。<冊子番号9・12参照>。〔可児〕

6

EL AMOR ETERNO

Yoichi Nakagawa(中河与一)[1897-1994]/Wataru Kikuchi(菊池亘)[1922-]
Tokyo[日本]: Taiseido(大盛堂書房)
1976.182p.21cm./『天の夕顔』/スペイン語/翻訳(対訳)書

 Wataru Kikuchiによる中河与一「天の夕顔」(「日本評論」1938・1、新年臨時号)のスペイン語対訳書(初版)。表紙には、著者名、表題、訳者名のほか、著者の所属を記す。裏表紙、及び本編では原題を日本語で記載する。奥附には『和文西訳・天の夕顔』とある。訳題は「永遠の愛」の意。象徴的な原題に対し、物語内容から題名を導いている。
 冒頭は、翻訳者によるスペイン語版序文、次頁に同内容の日本語版序文。続いて、エピグラフに和泉式部の和歌の対訳を掲げ、本文全六章(1-165頁)を訳出する。末尾に注(170-182頁)。序文は原著者および関係者への謝辞。本文での対訳は、見開き左頁に日本語、右頁にスペイン語を掲載し、段落ごとに対置する。この構成の企図は、翻訳に際し、日西語の表現の対応に最大の注意を払う方法と通底する。注では、熟語やイディオムなどの表現について日西語を対置、適宜略説している。日本語はパラルビ、句点にはカンマを用いる。和歌は、原文を二行で表記し、スペイン語を四行で表記する。
 翻訳者は、表紙にあるように、Universidad marino-mercantil de Kobe(神戸商船大学、現神戸大学海事科学部)に所属し、スペイン語教育に力を注いだ。『やさしいスペイン語読物』(1973・4、大学書林)等の著書がある。<冊子番号8参照>。〔服部〕

7

LA FUGITIVA DE CHUJO

Murasaki Shikibu/Manuel Tabares
Buenos Aires(ブエノスアイレス)[アルゼンチン]:Aves Del Arca
1977.103p.18㎝./『源氏物語』/スペイン語/翻訳書

 Manuel Tabares(マヌエル・タバレス)による『源氏物語』のスペイン語訳(初版)。表紙は、Douglas Wright(ダグラス・ライト)による櫛で髪を梳かす女性の絵。題名の「Fugitiva」は、「逃亡する・はかない・つかのまの」の意。
 解説は、Manuel Tabares自身による。「源氏の歴史」と題し、19頁に及ぶ。まず、平安時代、仏教(空海)、藤原摂関家、紫式部、『古事記』『萬葉集』『伊勢物語』等を紹介。次に、長編恋愛小説としてプルースト『失われた時を求めて』を挙げ、紫式部『源氏物語』と比較する。また、日本文学に関するDonald Keeneの文章(『La Literatura Japonesa』(Mexico・1956))の引用も多い。翻訳に関してはArthur Waleyの英訳を参考にしたとある。
 本文は、「夕顔」のみを訳す。宮中の堅苦しい貴族生活と縁のない、風情ある夕顔の宿の女性、夕顔に惹かれていく光源氏の物語を『源氏物語』における挿話的な出来事と解していると述べる。これは、「夕顔」の原文が「御忍び歩きの頃」で始まることから、御忍び歩きの光源氏と夕顔とのはかない逢瀬を示す題名にも通じる。巻全体を最後まで訳さずに、夕顔との出会い・逢瀬・死の場面だけを取り上げ、空蝉との場面は省く。最後は、亡き夕顔を偲び、「正に長き夜」と光源氏が独白する『白氏文集』の引用場面で終わっている。〔菅原〕

8

EL AMOR ETERNO(スペイン語対訳天の夕顔)

Yoichi Nakagawa(中河与一)[1897-1994]/Wataru Kikuchi(菊池亘)[1922-]
Tokyo[日本]:Hara sho-bo(原書房)
1978.182p.20cm./『天の夕顔』/スペイン語/翻訳(対訳)書

 中河与一『天の夕顔』(「日本評論」1938・1、新年臨時号)のスペイン語対訳書。ハードカバー。表紙には夕顔の画。表題、著者、訳者をそれぞれ日西語で併記。
 冒頭に、スペイン大使館のArturo Pérez Martínez(アルトゥーロ・ペレス・マルティネス)による序文をスペイン語、日本語の順に掲載。エピグラフ(和泉式部の和歌)の対訳、本文(1-182頁)の対訳、注と続く。スペイン語版序文は寄せられたタイプ原稿を直接掲載したと見え、手書きのサインも印刷している。日本語版序文への翻訳は原書房編集部による。その趣旨は、本書翻訳の試みを、異質な文化をもつ「日本とスペイン語圏の国民が接近する、有望かつ着実な過程の一要素」として賞賛するもの。また、本作を、「実生活の各分野に偏在する物質主義と消費主義支配下の世界で、唯心性と感受性のオアシスにも似たこの典型的日本風の、絶妙な作品」(以上日本語版より)とする。対訳、注は既刊の大盛堂書房版、菊池亘訳『El Amor Eterno(和文西訳・天の夕顔)』(1976)の転載。変更は、エピグラフの表記(和歌原文が四行で表記)。及び注の一部増。
 『天の夕顔』の翻訳は、カミュに認められた戦前の独訳(Nipponsches Deutsches Kulturinstitut,1942)をはじめ、英訳仏訳が複数刊行されているが、とくに対訳書としては、太田朗英訳、福田睦太朗仏訳『天の夕顔:国際版』(1980・9、こびあん書房)がある。<冊子番号6参照>。〔服部〕

9

MANIOSHU:Colección para diez mil generaciones(Antología poética)

/Antonio Cabezas García[1931-]
Madrid(マドリード)[スペイン]:Hiperión
1980.219p.20cm./poesía Hiperión/『萬葉集』/スペイン語/翻訳書

 Antonio Cabezas García(アントニオ・カベサス・ガルシア)による『萬葉集』のスペイン語訳(初版)。表紙は兜の絵。
 解説は、Antonio Cabezas García自身による。短歌の音律、俳句、『古今和歌集』への影響などについて述べる。和歌の説明において、Arthur Waley『The Originality of Japanese Civilization』を引用している。俳句では、参考本として松尾芭蕉『Sendas de Oku(奥の細道)』(Barral・1970)を挙げる。
 本文は、時代別に1[630~672年]、2[672~710年]、3[710~733年]、4[733~760年]、5[作者未詳歌]の5つに分け、天武天皇・額田王・聖徳太子など、人物ごとに和歌を掲載。1章の冒頭は、磐姫皇后の和歌3首から始まっている。全ての和歌は掲載せず、抄訳で約800首。Jose Luis Martínez・Karl Petitによる『China y Japón』(Secretaría de Educación Pública・メキシコ・1976)では、和歌は5行書きで統一しているが、本書は3行書き(長歌を除く)。
 翻訳者Antonio Cabezas Garcíaは、元京都外国語大学イスパニア語の教授。出版社Hiperión(イペリオン)は、川端康成、大江健三郎、三島由紀夫、吉本ばなな等の作品も出版。<冊子番号5・12参照>〔菅原〕

10

IDEOLOGÍA Y LITERATURA EN El JAPÓN MODERNO

Shunsuke Tsurumi(鶴見俊輔)[1922‐]/Carmen Fierro
Mexico, D.F.[メキシコ]: El Colegio de México
1980.124p.21cm./Centro de Estudios de Asia y África del Norte;Ensayos7/『近代日本の思想と文学』/スペイン語/研究書

 鶴見俊輔による、近代日本の思想と文学に関する講義録。スペイン語による本書が初出となる。ペーパーバック。表紙に絵巻風の十二単姿の図、裏表紙に内容紹介。
 目次に続き、鶴見による序文(1-2頁)、本編(3-124頁)。序文によれば、本書の内容は、1972年9月から翌年6月まで、メキシコにおいて行った一連の講義による。聴講者の一人が出版化を主導、当時助手だったCarmen Fierro(カルメン・フィエロ)が翻訳を担当した。さらに、こうした「共同」の重要性を深く認めている旨を明記し、日本の知的文化的伝統の一側面に光をあてることが出来ればと述べる。本編12章の各題を邦訳すれば、Ⅰ日本文化へのアプローチ、Ⅱ私小説、Ⅲナショナル・アイデンティティを求めて、Ⅳユートピアを求めて、Ⅴ革命の文学、Ⅵ臆病者の文学、Ⅶナショナリストの文学、Ⅷ戦争の文学、Ⅸ伝統の問題、Ⅹ日本近代文学における方言の役割、XIマス・コミュニケーションと周縁の芸術、XII仕草と文学、となる。文学作品を中心とした多くの資料を博捜し、それまで西洋化による断絶でもって意味づけられてきた日本近代を、時間的空間的な連続性によって読み解いていく。資料は、ローマ字表記での引用とスペイン語訳を対置。なお奥附に初版部数を3000部と記してあり、蔵本巻末にはNo,2152とナンバリングしている。〔服部〕

11

JAPÓN:Konjaku monogatari y otros textos

/Jorge González de León
Mexico City[メキシコ]:Conafe-Editorial Trillas
1982.65p.23cm./Los Clásicos de La Literatura/『今昔物語集』・和歌/スペイン語/翻訳書

 Jorge González de León(ホルヘ・ゴンサレス・デ・レオン)による『今昔物語集』と和歌のスペイン語訳(初版)。1986年再版。表紙は、Raúl Herreraによる巻24-8「女、医師の家に行きて瘡を治して逃ぐる話」の挿絵の抜粋。老典薬頭が欲念する美女の姿。
 解説は、Jorge González de León自身による。『今昔物語集』の解説では、日本の歴史・時代区分、口承文芸の説明。内容区分は、天竺説話・震旦(中国)説話・本朝(日本)説話で、その4つについて述べる。和歌の解説では、短歌・俳句、宇宙的なもの(愛・死・夜・月・来世等)が和歌に詠み込まれていることを述べる。
 『今昔物語集』の本文は、本朝説話中の世俗説話のみを掲載。これは、Susan Wilbur Jonesによる『Ages Ago: Thirty-Seven Tales from the Konjaku Monogatari Collection』(Harvard University ・1959)の英訳をもとに、37話中から15話(巻23-19・22・23話/巻24-4・5・8・20・26話/巻26-7・11話/巻27-5話/巻28-34話/巻29-32話/巻31-9・27話)を抜粋したもの。和歌は、紀貫之・文屋朝康・壬生忠岑・紫式部・和泉式部・藤原定家などの和歌を、作者未詳歌・神楽歌を含め42首を掲載。4・5行書きなど不統一。
 出版社Trillasは、プエルトリコ・ベネズエラ等にもある。本書のシリーズは、この他世界各国の古典叙事詩を出版している。〔菅原〕

12

CANTARES DE ISE(Ise Monogatari)

/Antonio Cabezas García
Madrid(マドリッド)[スペイン]:Hiperión
1988.166p.20cm./poesía Hiperión17/『伊勢物語』/スペイン語/翻訳書

 Antonio Cabezas García(アントニオ・カベザス・ガルシア)による『伊勢物語』のスペイン語訳。初版は1979年で、その第2版。本書はシリーズpoesía Hiperiónの17にあたる。表紙には50段の絵(嵯峨本)を用いる。
 解説はAntonio Cabezas García自身による。翻訳の問題・9世紀の日本の社会・作品と史実・地理・タイトル・『伊勢物語』の系列について述べている。
 本書は全段翻訳。全体を7つの系統に分け、それぞれ以下のような見出しをつける。第1系統:高子の愛と業平の流浪(2段~15段)・第2系統:業平のロマンス(17段~22段)・第3系統:恋とは何か(25段~62段)・第4系統:高子(65段)・第5系統:斎宮恬子(69段~75段)・第6系統:都にて(77段~105段)・第7系統:歴史と伝説のなかの業平(108段~123段)。さらに各系統の間にはInterludio(間奏)が置かれている(16・23・24・63・64・66・67・68・76・106・107段)。挿絵は嵯峨本より(1・4・6・9・12・18・23・45・50・63・69・78・87・95・119・125段)。なお、附録として巻末に歴史の流れ・天皇の系図を示したものがある。<冊子番号5・9参照>。〔森田〕

13

ESPEJO DE LA LUNA

Saigyo/José Kozer[1940- ]
Madrid[スペイン]:Miraguano
1989.125p.20cm./Libros de los Malos Tiempos/西行/スペイン語/翻訳書

 José Kozerによる西行の和歌のスペイン語訳。1989年にMiraguano社から「Libros de los Malos Tiempos(悪しき時代の本)」第30冊目として出版。西行の和歌のスペイン語訳は本書が初である。タイトル「Espejo de la luna」は「月の鏡」の意。本書は、特に記されてはいないが、伊藤嘉夫校注『山家集』(朝日古典全書)を底本とした、William R. LaFleur『Mirror for the moon』の重訳。比較すると、106番目以降の歌の順序が入れ違っている部分もあるが、合計173首は同じ。表紙は黒で、下半分に安藤広重『江戸近郊八景之内』「玉川秋月」を用い、裏表紙にもその一部分を掲載。
 歌番号はなく、見開き左頁に和歌をローマ字で5行書し、菱形に上り藤をあしらった紋様で仕切る。右頁には、そのスペイン語訳をこれも5行書にして対照させている。詠歌事情を詳述する詞書がある場合など、右頁にその訳のみ載せる。そのため、基本的に1頁に3首ずつを載せるが、長い詞書や注を記す場合に1頁2首の頁が10箇所ある。「ホトトギス」「Dharma」「Tathagata」「弘法大師」など、英訳にはない注をつける。
 タイトル「月の鏡」は、西行がとりわけ月を好んだことによる命名と考えられ、本書所収173首のうち44首が「月」を詠み込んだ和歌である。勅撰集に入集する西行の和歌は、『詞花集』の読人不知や『新古今集』の後出歌を含め267首であるが、そのうち58首を採録。その多くは『新古今集』からであり、94首中43首を数える。解説等はすべて、別の小冊子(14頁)に記す。第1~4章にわけて、西行の略歴、時代背景、和歌の解説、西行の和歌の特色について説明する。
 翻訳者José Kozerは、キューバのハバナ出身。詩人。ハバナ大学で法律を学び、その後ニューヨーク大学でB.A.取得。Queens College of the City University of New Yorkで長く教鞭を取った。現在アメリカ合衆国フロリダ州在住。〔大野〕

14

MURASAKI-SHIKIBU DIARI

Murasaki-shikibu/Dolors Farreny i Sistac
Barcelona(バルセロナ)[スペイン]: Edicions de l'Eixample
1990.108p.21cm./『紫式部日記』/カタルーニャ語/翻訳書

 Dolors Farreny i Sistac(ドロールス・ファレニ・イ・シィスタック)による『紫式部日記』のカタルーニャ語訳(初版)。表紙は、Salvador SauraとRamón Torrenteによる大写しの引き目かぎ鼻の女性の顔。
 解説は、René Sieffert(ルネ・シフェール)による。これは、René Sieffert『JOURNAL』 (Publications Orientalistes de France・1978)の解説の内容とほぼ同じ。解説では、現存する日本最古の「公事仮名日記」として藤原穏子の『太后御記』に触れるが、それはあくまでも記録であり、文学作品としての最初の仮名日記は、紀貫之の『土佐日記』であると述べる。また、『古今和歌集』や在原業平、『蜻蛉日記』『和泉式部日記』『紫式部日記』『更級日記』『成尋阿闍利母集』『讃岐典侍日記』など代表的な日記作品を挙げて説明する。さらに、「作家」「藤原道長と一条天皇邸」「作品の歴史(本文について)」「日記の内容」「女性の服装についての注」と題して解説する。翻訳に際しては、日本古典文学全集『紫式部日記』(小学館・1974)を参考にしたとある。
 本文は、René Sieffert『JOURNAL』の仏訳をスペイン語に翻訳したもの。仏訳同様に紫式部を一人称で書く。和歌の構成も同じで、5行書き。〔菅原〕

15

BOTCHAN (Chiquillo)

Soseki Natsume/Fernando Rodríguez-Izquierdo
Kamakura[日本]:Luna Books
1997.209p.21cm./『坊っちゃん』/スペイン語/翻訳書

 Fernando Rodríguez-Izquierdo(フェルナンド・ロドリゲス・イスキエルド)による『坊っちゃん』(『ホトトギス』1906・4)のスペイン語訳(初版)。表紙はEstevao Makiyamaによる。主人公が赴任先の学校の宿直室で、寝る間際に布団から飛び出したバッタに驚いている場面を描いたものである。書名の「Chiquillo」とは「子供」の意で、ローマ字表記のタイトルに、意味的な補足をしたものである。
 解説はMontse Watkins(モンセ・ワトキンス)による。冒頭、漱石が日本において今世紀最も優れた散文作家でリアリズムを完全に成熟させた最初の人物であると述べている。続いて漱石の略歴を紹介し、最後に日本政府が1984年以降、千円札のデザインに漱石の肖像を採用したことも紹介する。
 本文中には適宜注が付してあるが、その多くは「tokonoma(床の間)」、「yukata(浴衣)」など日本文化特有の事物についての説明である。
 Fernando Rodríguez-Izquierdoはスペインのセビリア出身。言語学者。本書の他安部公房のスペイン語訳も手掛ける。Luna Books(ルナ・ブックス)は1994年、解説者Montse Watkinsにより設立。夏目漱石のほか、宮沢賢治・小泉八雲・芥川龍之介などのスペイン語翻訳本を出版している。〔山田〕

16

ANTIGUOS MITOS JAPONESES

Nelly Naumann[1922-2000]/Adan Kovacsics
Barcelona[スペイン]:Herder
1999.226p.22cm./『日本の神話』/スペイン語/翻訳書・研究書

 本書は、1996年にドイツのミュンヘンでC.H. Beckが出版したNelly Naumann『Die Mythen des alten Japan』のスペイン語訳。翻訳者はAdan Kovacsics。タイトルは「古代日本の神話」の意。表紙見返しに、Nelly Naumannの略歴、裏の見返し、巻末3頁には広告を載せる。もとのドイツ語版はハードカバーで、表紙は赤い背景に今城塚古墳出土の埴輪の写真を用いるが、本書はペーパーバックで、本文内に使用する土偶の写真をクローズアップしたものを用いる。本書には日本の地図、埴輪、土偶、土器やそのスケッチなどの白黒の写真版を96頁と97頁の間に16頁分はさむ。それは、ドイツ語版では言及している箇所におかれている。
 本書は、まず解説で、神話によって何を理解するかという見出しのもと、日本の神話や調査対象としての日本の神話について述べる。本論は、「神統系譜学,宇宙進化論,宇宙論」「神話的な世界秩序」「政治的な神話」「神話の影響」の四つの部分から成り、さらに細目に分ける。各部分において、『古事記』『日本書紀』を一節ずつ翻訳し、その解説をすることにより、日本における世界創造の概念を描き出し、それがどのようにして天皇家の存在の正当性に変わっていったのかについて述べる。附録として、参考文献、日本と中国の用語辞典、索引を付す。
 著者のNelly Naumannは、ドイツのバーデン州レーラッハ生まれ。ヴィーン大学で日本学・中国学・民族学・民俗学・哲学を専攻。日本学・中国学・民俗学で博士号取得。1970年フライブルク大学で大学教授資格を取得し、85年まで同大学教授。日本語訳の著書に、第31回日本翻訳出版文化賞受賞の『山の神』や『久米歌と久米』、論文集『哭きいさちる神スサノオ―生と死の日本神話像』。
 翻訳者Adan Kovacsicsは、本書の他にも、ドイツ語からスペイン語への翻訳を多数手がけている。〔大野〕

17

El CUENTO DEL CORTADOR DE BAMBÚ

/Kayoko Takagi
Madrid(マドリッド)[スペイン]:Trotta S.A.
2002.115p.20cm./Pliegos de Oriente/『竹取物語』/スぺイン語/翻訳書

 Kayoko Takagi(高木香世子)による『竹取物語』のスペイン語訳。初版は1998年。本書はその第2版。表紙は十二単姿の女性。題名は「竹を切る物語」の意。UNESCOの極東シリーズの内の1冊。
 解説は高木香世子自身による。まず、仮名で書かれた物語文学について解説し、『竹取物語』を日本文学史における物語の夜明けの作品と位置づけ、次に『竹取物語』前後の文学作品を概略する。構造と主題の項では、物語のあらすじ、羽衣説話や求婚譚、文体や和歌の掛詞などの技法について言及し、人物呼称の方法や言霊信仰を紹介する。また、中国文学の影響関係から作者と作品の成立背景を示唆する。翻訳上の問題では、特に日本語の母音や、苗字と名前で成り立ち「-no」で結合する日本の人物呼称についてとりあげる。底本には新潮日本古典集成『竹取物語』(新潮社・1979)を使用する。
 本文は、かぐや姫の誕生と5人の求婚者逹への難題譚、及び帝との交流と昇天までの物語全体を10章に分ける。和歌は4行に分けて書き、下句は2字下げ。脚注に語釈や出典、また巻末の参考文献などをもととした注釈を載せる。
 高木香世子は、マドリッド自治大学の日本語・日本文化学の教授、同大学の東アジア研究センターの研究員。〔岩原〕

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EL LIBRO DE LA ALMOHADA DE LA DAMA SEI SHONAGON

Sei Shonagon/Iván Augusto Pinto Román[1950- ], Oswaldo Gavidia Cannon[1963- ], Hiroko Izumi Shimono[1964- ]
Lima(リマ)[ペルー]:Fondo Editorial de la Pontificia Universidad Catolica del Peru(ペルーカトリカ大学出版部)
2002.534p.21cm./Coleccion Orientalia/『枕草子』/スペイン語/翻訳書

 Iván Augusto Pinto Román(イヴァン・アウグスト・ピント・ロマン)・ Oswaldo Gavidia Cannon(オズヴァルド・ガヴィディア・カンノン)・Hiroko Izumi Shimono(ヒロコ・イズミ・シモノ)による『枕草子』のスペイン語訳(初版)。
 まえがき(Prefacio)はHiroko Izumi Shimonoによる。清少納言と『枕草子』の解説、4種の伝本に関する説明、章段の3分類などに触れている。また、底本には主に金子元臣『枕草子評釈』を使用し、併せて三条西家旧蔵(学習院大蔵)の能因本も参照したとある。続いてIván Augusto Pinto Románによる巻頭言(Nota Liminar)と序言(Prologo)が付される。
 目次は301の章段全てにおいてローマ字書きになっているが、本文中の見出しではローマ字書きにスペイン語訳を併記している箇所もある。固有名詞等は脚注で解説する。巻頭には東京国立博物館蔵『百人一首画帖』から清少納言像を掲載。また所々に『枕草子絵巻』から該当する場面の図版を収める。巻末には平安京の見取図、平安京の宮殿について、古代日本の暦について、日本語(発音その他)についての説明と人物や官職に関する解説、10世紀から11世紀における皇室と藤原家との関係系図を収録。
 Iván Augusto Pinto Románは日本文化史の研究者。1993年よりカトリカ大学東洋研究センターに在籍。Oswaldo Gavidia Cannonはカトリカ大学の文学教授。1996年~1997年、韓国・檀国大学客員教授。〔山田〕

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GENJI MONOGATARI:Romance de Genji

Murasaki Shikibu/Fernando Gutiérrez
Mallorca(マリョルカ島)[スペイン]:Torre de Viento
2002.258p.21㎝./『源氏物語』/スペイン語/翻訳書

 Fernando Gutiérrez(フェルナンド・グティエレス)による『源氏物語』のスペイン語訳。初版は1992年で、その第3版。表紙は、薫が大君と中の君を垣間見る場面(橋姫巻)。
 解説はFernando Gutiérrez自身による。和歌には「山吹」「桜」などが詠まれることを指摘し、小野小町(『古今和歌集』113番歌)・素性法師(『古今和歌集』691番歌)を掲載。また、紫式部の家系、『源氏物語』の執筆場所(石山寺)、『狭衣物語』についても触れる。翻訳は、Arthur Waley(英訳)、Kiku Yamata(仏訳)『Le Roman de Genji』(1928)を参考にしたとある。本書の副題がKiku Yamataのものと一致。Kiku Yamataの重訳としては、Ivo Domenichini『IL ROMANZO DI GENJI』(Casa Editrice Nerbini・1942)伊訳などもある。
 本文は、「桐壺」~「葵」を収録。巻名は、「KIRITSUBO」とローマ字表記が多いが、「紅葉賀」「花宴」のみ、「KOYO-SETSU」「LA FIESTA DE LAS FLORES(花の宴)」とする。登場人物に関しては、「Fujitsubo」には「Glicinas(藤)」と最小限の脚注を付す。和歌は3・4行書きと不統一。挿絵は、山本春正『絵入源氏物語』から、各巻ごとにすべて掲載。16頁と17頁の間には、カラーで8頁分、土佐光吉・光則・光成筆の源氏絵を載せる。
 Fernando Gutiérrezは、『日本の美術』(1967)なども出版。Torre de Viento(トーレ・デ・ビエント)は、本書の他、宮本武蔵『五輪書』、新渡戸稲造『武士道』等を出版。〔菅原〕