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保坂本 源氏物語
大阪大学教授 伊井 春樹
 保坂潤治旧蔵源氏物語(東京国立博物館蔵、重要美術品)は、かつて国宝伝藤原為家筆各筆本として紹介され、『校異源氏物語』『源氏物語大成』に校異として採用された伝本である。桑名藩主松平楽翁公の遺愛品と伝えられ、昭和十年に保坂本となり、現在は東京国立博物館に襲蔵される。本書は浮舟巻を欠く五十三帖、前半の十七帖は三条西実隆等による室町中期の補写、後の三十六帖は鎌倉期の古写本で、「別本が三十四帖もまとまっているのは、この本をもって第一とする」(『源氏物語事典』下)と評価されながら、これまでは校異によってしか本文を知ることはできなかった。別本の本文を持つ陽明文庫本以上に注目すべき伝本であるだけに、ここに写真複製することによってはじめて全貌が明らかになり、本文研究において不可欠の資料となるであろう。
 別巻として初めて別本の文節による索引を付した。


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↑「賢木」五オ
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本文研究の新時代を象徴
東京女子大学教授 室伏 信助

 源氏物語の本文研究は、かつての青表紙本絶対視の時代から、漸く享受の多様化を直視する新しい時代へと大きく変貌しつつある。ことに近年は、いわゆる別本を微細に吟味することから、逆に青表紙本そのものの成り立ちが透視される画期的な時代へ突入した観すらある、といってもよいであろう。
 鎌倉期の古写本で別本が三十四帖もまとまっている保坂本は、従来『校異源氏』や『大成』に校異として採用された活字でしか見ることができなかったが、このたび精巧な複製によって初めてその様態が見られる。源氏注釈史の研究や、現在刊行中の源氏別本集成の主導者として大きな実績をもつ伊井春樹氏の編になる『保坂本源氏物語』の刊行は、原作のない傑作とはいったい何を根拠に言いうるのかに応える、一つの有力な証言としての役割を果すに違いない。
 本文研究の新時代を象徴する出版として、その意義を重視し、広く江湖に推薦する。

『保坂本 源氏物語』全12巻・別巻1巻の内容

第一巻(5冊セット)
 桐壷・帚木・空蝉・夕顔・若紫
第二巻(5冊セット)
 末摘花・紅葉賀・花宴・葵・賢木
第三巻(6冊セット)
 花散里・須磨・明石・澪標・蓬生・関屋
第四巻(5冊セット)
 絵合・松風・薄雲・朝顔・少女
第五巻(6冊セット)
 玉鬘・初音・胡蝶・蛍・常夏・篝火
第六巻(6冊セット)
 野分・行幸・藤袴・真木柱・梅枝・藤裏葉
第七巻(2冊セット)
 若菜(上)・若菜(下)
第八巻(4冊セット)
 柏木・横笛・鈴虫・夕霧
第九巻(5冊セット)
 御法・幻・匂宮・紅梅・竹河
第十巻(3冊セット)
 橋姫・椎本・総角
第十一巻(3冊セット)
 早蕨・宿木・東屋
第十ニ巻(3冊セット)
 蜻蛉・手習・夢浮橋
別巻 本文索引
 伊井春樹・伊藤鉄也・中村一夫編

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